Chartehouse RecordsのMotoki Hadaです。
以前、カセットMTRを使った同期ライブの【準備編】と【実践編】の紹介をしましたが、今回はカセットテープを使った音の加工について説明します。
何故カセットテープを使って加工をするのか
目的はカセットテープに一度素材を録音をしてアナログの質感にします。カセットテープはCDやハイレートのデジタルデータの様に”綺麗な音”ではありませんが、アナログ録音のため、音以外の要素(ノイズや特性)が含まれる事でレコードの様な”温かみ”が感じられる音に変わります。
市販の音ネタやソフトシンセでは音が綺麗すぎたり、細かったりと音が目立たたない素材があります。カセットテープに一度録音する事でノイズがのり、テープコンプレッションが掛かって独特の質感や雰囲気になります。この質感や雰囲気を楽曲に取り入れる事が狙いです。
今の時代プラグインで代用できるのでは?と言われそうですね。確かに現在はテープをシミュレーションした優秀なプラグインが多数発売されており、誰でも簡単にテープを使った効果が得られます。私もWaves Kramer Master Tapeを使用しますが、曲やパーツによっては思った効果が得られず、本物のカセットテープに録音した方が良い結果を得られる事が何度もありました。
それでは私が主にカセットテープに録音して加工する素材とその作業方法について紹介します。
加工する素材
- スネア
- ハット
- ブレイクビーツ
- ソフトシンセ
- ハードのデジタルシンセ
これらの素材は音が細かったり、綺麗だったり、デジタル臭かったりと素の状態では使い辛いためカセットテープの質感に加工します。
ソフトシンセはカセットテープに録音するとサンプルネタの様になったり、スネアの音色はクラブミュージックでは目立つパートのため加工したたけで音が太くなったり、荒くなったり、前に出たりと曲の印象が大きく変わります。
また、マスタリング前の2mixをカセットテープに録音すると「カセットテープで録音した曲」の質感になるため有効的な手法だと思います。
リズム関連はモノラル、上モノはステレオで録音
ソースや目的により異なりますが、個人的にはモノラル録音はリズムパーツなどを音を太く汚す場合、ステレオは広がりのあるストリングやPadでテープの雰囲気が欲しい場合などで使い分けます。
実際の作業方法
今回はRolandのリズムマシン”TR-8”のTR-909とTR-808の音色を使った2つのリズムパターン素材にして加工を行います。
①カセットテープに録音
TR-8のパターンを走らせMTR(TASCAM 488mk2)に録音。
②録音した素材をDAWに録音。
録音したTR-8の素材をAbleton Liveに48kHz/24bitで録音。
以上、作業はこれだけです。
それでは作業前と後の音を聴き比べてみてください。
▪️TR-909
ノーマル音源
カセットテープ録音音源
▪️TR-808
ノーマル音源
カセットテープ録音音源
カセットテープ録音音源はコンプで高音域が抑えられ、若干低域が持ち上がりノーマル音源と比べても全体的に”丸い”印象があると思います。カセットテープに録音するだけでアナログらしい質感が変化した事が分かると思います。
録音時の裏技
本来であれば間違った録音方法なので違った音になってしまうのですが、それを逆手にとって音を加工する方法をお教えします。
①ピッチコントロール
ピッチコントローラーが付いている機種であればカセットテープ録音時のピッチを下げテープの走行スピードを落として録音。DAWへの録音時はピッチを最大に走行スピードを最大にしてから取り込みます。取り込んだ後にピッチを元に戻すと汚れ具合がアップします。ヒップホップでは定番の45回転でレコードをサンプリングした後にサンプラーでピッチを下げる手法と同じです。
②ノイズリダクション
カセットデッキやMTRに”ドルビー”や”dbx”などのノイズを低減する”ノイズリダクション”が付いてる機種があります。このノイズリダクションは録音時と再生時は同じ設定にしないといけませんが、カセットテープに録音時には敢えて”OFF”にし、DAW取り込み時には”ON”にすると音が高音が削られて音が籠ります。逆に”ON”にして録音、取り込み時に”OFF”にするとノイズが増え高音が持ち上がります。
録音時OFF、取込み時ON
録音時ON、取込み時OFF
③レベルをオーバー気味に録音
カセットテープ録音時にメーターの赤が付くぐらいにオーバーレベル気味に歪ませて録音するとテープコンプが効き迫力が増します。また、質感も荒くなり雰囲気も変わります。アナログの特性として0dbを超えても直ぐには歪まないため、DAWなどのデジタル録音とは違うアナログならではの技です。
④古いテープ
古く聴きすぎてしまったカセットテープはよれたり、伸びてたりと、録音時に音に歪が生じて良い音で録音ができません。しかし、これを逆手に取り綺麗な音で無く”汚い音”で録音するのは最適な状態です。カセットテープ世代の方で実家の押し入れに長く眠っているカセットを活用してみてください。
※古いカセットテープは切れて機器に悪影響を与える場合がありますのでご自身の責任でお試しください。
カセットテープの加工素材プレゼント
TR-8の各パーツ素材をカセットテープに録音して作成したwavデータをプレゼントします。このwavデータを使っての自作楽曲の商用利用は可能ですのでご自由にお使いください。
但し、以下の行為は禁止とさせていただきます。
- パーツ素材データの二次販売
- パーツ素材データへの直リンクURLの配布及び掲載
- パーツ素材ダウンロード後のコピー配布(ネットワーク、メディア経由)
フォーマット:48kHz/24bit wav
音色:TR-8のTR-909、TR-808キット
カセットテープを音楽制作に取り入れた作品
メジャー/インディーズを問わずカセットテープを制作ツールとしてリリースされた作品を紹介。
▪️電気グルーヴ/Shangri-la
ボーカルトラックをカセットテープに録音した事で歯擦音(サ行の子音)が減ったとの事。
▪️Orbital/Chime
歴史に残るテクノアンセム。マスターは4トラックのカセットMTRで制作された事は有名。
▪️DJ Guy
ロンドンのアンダーグラウンド・ヒップホップアーティスト。数々の作品でFOSTEXの4trMTR『MTRX26』を使用。
▪️Motoki Hada/Progress
フィルの役割をするリズム(頭に鳴ってるリズム)は一度カセットに録音して質感を調整。
カセットテープを制作、リスニング環境に取り入れるには
現在でも家電量販店ではコンパクトで安価なカセットプレイヤーや日本メーカーのラジカセが売られており、TASCAM、TEACもプロ用のカセットデッキを現行商品として販売しています。また、ヤフオクやメルカリなどの個人売買サイトでも状態の良いものやメンテナンス済のカセットデッキやカセットMTR、ウォークマンが売られていますので簡単にカセットテープライフが始められます。自分の制作環境やリスニング目的でのカセットテープ機器の導入を検討してみては如何でしょうか。
関連記事