Charterhouse RecordsレーベルオーナーのMotoki Hadaです。レーベル運営業務から楽曲制作、クラブでのDJ、ライブなどの活動を行ってます。今回は自分の活動内容のひとつであるライブセット、”カセットMTRとハードウェアの同期ライブ”についてお話します。
ライブでハードディスクが使われ始め約20年、現在カセットMTRを使用するアーティストはプロ、アマ共に殆ど居なくレアな内容ですが、近年のカセットブームにより見直されているカセット独自の音質をライブや制作で取り入れたい人の為に参考になればと思います。
何故ライブでカセットMTRを使うのか
以前はAbleton Live+ハードウェア+MIDIコンというオーソドックスなセッティングでライブを行ってましたがカセットをリリースするレーベルらしく、レーベル発足後はハードディスクとは違うカセットの音を感じて欲しいと思い、カセットMTRとハードウェアを同期させ、MTRのミキサーでミキシングするスタイルに変更しました。
一番最初にカセットMTRを使ったライブを行ったのが中目黒のSolfaでした。カセットの音質でクラブのサウンドシステムから出して大丈夫なのかと不安でしたが、サウンドチェックで最初に出した音が予想を遥かに超えるパンチのある音とアナログな質感を感じる事ができ、カセットテープはクラブでも通用すると確信を得てライブではカセットMTRを使用しています。
私がトラックメイキングを始めた頃はちょうどカセットMTRからハードディスクMTRへの移行期でRolandのVSシリーズやMacでのハードディスクレコーディングを行う人が増えてきた時期です。私も当時はカセットMTRは使ったことがなく、Studio Visionのハードディスクレコーディング機能が人生初の録音体験でした。
本題の前にカセットとカセットMTRのお話
カセットテープにはA面B面があり、其々の面にステレオ録音ができます。これは1本のカセットが4トラックあり、通常のカセット録音はA面に2トラック、B面に2トラック、其々違う走行方向で録音できる仕組みとなってます。そのためカセットは片面でL、Rのステレオ録音(2トラック)が可能になってます。(下記参照)
カセットMTRはカセットの4トラックの特性を生かし、同一方向走行に4トラック録音ができる仕組みなってます。そのため録音時間は通常のカセットの半分以下(60分テープなら30分)の時間となり、裏返して再生すると逆再生になります。(下記参照)
カセットMTRは製品(主にプロ用)によっては音質を重視するためテープの走行スピードが通常のカセットデッキやラジカセと比べて早いものがあります。市販されているアーティストのカセットや、通常のカセットデッキで録音したものをカセットMTRで再生するとBPM早くピッチが上がって再生されます。
機材のセッティング
それではセッティングの解説を始めていきましょう。使用する機材は以下のものです。
- 使用機材
- TASCAM 424MK3(カセットMTR)
- TASCAM MTS-30(シンクロナイザー)
- Roland TR-8(リズムマシン)
- Ableton Live(DAWソフト)
- DJM-850(オーディオインターフェース)
- ハイポジカセット(カセットテープ)
- ※ノーマルポジションでも録音は可能だが、レンジが狭くなるためオススメできない。
AbletonをマスターとしてTR-8を同期させ、同期したTR-8がMIDIの同期信号をMTS-30に送り、MTS-30からFSK信号を424MK3に送る仕組みとなってます。
①FSK信号(同期信号)の録音
まずはカセットMTRとMIDIを同期させるためにFSK信号という同期信号をカセットに録音する事が必要です。FSK信号はMTS-30を介して424MK3に送られます。信号はオーディオ信号のためケーブルはオーディオ用のRCAケーブルを使用します。予め制作しておいたAbleton Liveのライブセットファイルを再生し、FSK信号をカセットの4トラック目に録音します。オケの長さ分FSK信号を録音させたら424MK3を停止します。
セッティング図
FSK信号はテンポチェンジにも対応できるため、準備しているオケでテンポチェンジを行ってもそのBPMに併せてMIDI機器が同期します。
②オケの録音
Ableton Liveで制作したライブ用のオケを424MK3に録音します。
録音時とは異なり今度は424MK3をマスターにしてMTS-30を介してTR-8が同期をすると、Abletonが同期をしてオケが流れるようにします。Ableton Liveの音はDJM-850から出力します。
セッティング図
ステレオのオケを録音するため、DJM-850のメインアウト(L、R)を424MK3の1、2トラックに録音。オケとFSK信号で3トラック分使いましたが、424MK3は4トラック仕様で残り1トラック空いているため、ライブでダブ処理やミュートしたい単独のパートも録音します。マルチアウトのあるオーディオインターフェースであればメインオケと単独のパートを同時に録音が可能ですが、無い場合は②の手順で単独パートのみ録音します。
以上で準備完了です。DAWとは違い、DAWで10秒で終わる作業に30分から1時間掛かってしまう事も多々ありすごく手間ではありますが、カセットテープの音質は何ものにも代えがたく、ライブでは多くの人にカセットの音質を楽しんでもらいたため、手間暇をかけて準備を行ってます。
次回はライブで実際にどの様な操作を行っているかをご紹介します。
Motoki Hada
UKのレイヴカルチャーに影響を受けトラックメイキング、DJ活動をスタート。ベルリンのレーベル”Berlin Aufnahmen”や、AKIKO KIYAMAなどがリリースをしているミュンヘンの”Eminor”の傘下”EMINOR BINARY”、ポーランドの”Pure Cocaine”より楽曲をリリースする。
ラップトップを使ったトラックのクオリティとライブ性を競うバトル”Laptop Battle Tokyo Vol.6″で初出場ながら準優勝。Red Bullが世界中のクリエイターを選出し、教育するプログラム”Red Bull Music Academy”の体験版、”Red Bull Music Academy Bass Camp 2012″に国内のクリエイターとして選出される。
Charterhouse Records立ち上げ後は、カセットテープレーベルのオーナーらしく、ラップトップからカセットMTRを使ったライブスタイルに移行。カセットMTR、TB-303、TR-8とMIDI、DYN-SYNC、FSKと3つの異なった信号を同期演奏させる事でも話題。
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