MasterSounds Radius 4の魅力
~イギリス・コンウォールの工房で作られるロータリーハンドメイドミキサー~
Pionner DJM-850を所有して約7年、リリースが2012年なので世に出て約8年ほどが経過した。自宅の環境がひと昔前の音になった感が否めい。長年聴いていると出音にも飽きてしまった。こんな状況を打破するため制作環境の向上も兼ねてDJミキサーの買い替えの検討を始めた。
-MasterSoundsとの出会い
劇的な環境変化を考えていたので、DJMシリーズを敢えて外して検討を開始。過去5年以内にリリースされた20万円以下のもの。スペック的にはミドルクラスにあたる機種を考えていた。しかし、近年のスタンダードなミキサーは20万円超えのため予算内のミドルクラスのミキサーは選択肢が少ない。(この条件で合うのがDJM-750MK2ぐらい)
DJMに飽きた人が行きつくALLEN&HEATH XONE-96の中古を探して買うかと思っていた矢先にDJミキサーのレビューサイトで見慣れないメーカー『MasterSounds』の存在を知る。
-伝説的エンジニア、Andy Rigby-Jonesがデザイン
MasterSoundsを調べてみると同社のミキサー『Radius』はModel 1やXONEシリーズを手掛けたエンジニアAndy Rigby-Jones氏とロンドンのレコードショップ『Phonica』の元スタッフでMasterSoundsの創設者Ryan Shaw氏とのコラボレーションプロジェクトだった。出音はPLAYdifferently MODEL1と同等の評価、ルックスも申し分なく、値段が改定したばかりで2ch仕様は799ポンドと信じられない価格設定だ。Model 1に憧れを持ち、XONE-96の購入を考えて、更にイギリス・コーンウォールの工房で作られているのもイギリス好きな自分にとって運命を感じて調査を始めた。
YoutubeでRadiusの音を聴いた時は温く、柔らかみのあるサウンドで長時間聴いていられる印象。チャンネルごとにハイパスフィルターとマスターにはアイソレターを備えているため音の加工も行え、筐体はDJMの大きさの約半分のためライブへの持ち出しもできると自分の理想を満たしてくれるものだった。ターンテーブルの他にハードウェア機材を接続したいので4ch仕様の『Radius 4』を買う事に決めた。
-オーダーと発送
MasterSoundsの商品は日本に代理店が無いため、オフィシャルホームページからオーダーをする。日本円の表示も可能でその日のレート額で表示がされる。
オーダーが入ってからの受注生産のため、私のオーダー時は組み立てに約30営業日と表示されていた。時期によって組み立て日数が異なるのでオーダー時に確認して欲しい。オーダー後はYoutubeやインスタでRadiusの動画を見て一日でも早く来ないかと待ち焦がれる日々を過ごしていた。
発送が完了するとUPSよりメールが送られてくる。メールに記載されているトラッキング番号をクリックすると現在何処に荷物があるか確認できるので海外通販初心者でも安心できる。イギリス⇒ドイツ⇒中国⇒日本のルートを辿りコロナ禍ではあったが、発送連絡から4日後にに到着。オーダーから30日ほどで手元に届いた。
-Sound
低域はほのかに膨らみ、中域以上は全体をグッと押し出した印象。音が左右に広がり、丸みを帯びたアナログ感が心地よい。やたら強調する低域や突き刺さるような高域の『不快なドンシャリ』なんて皆無。レコードやカセットのアナログ音源は勿論、圧縮されたファイル音源やSpotifyでも心地よく鳴り何時間でも聴いてられそう。大げさかもしれないが、Ableton Liveのノンマスタリング状態のプロジェクトファイルでも音が整ったように聴こえる。当たり前だがYoutubeやインスタで聴いていた音よりも予想を遥に超え、音の良さだけでも買った甲斐があった。
ロータリーの操作性を敬遠している人でも自分のお気に入りのミキサーの後に音を通すだけのアウトボード的な使い方や、アイソレーター目的だけでもオススメしたい。
しかし、向き不向きのジャンルがあり、Pionner DJM-900nexuと聴き比べると低音の鳴りや全体的は派手さはDJMに軍配が上がる。派手なEDMやトランスなどのハードな音にはDJMシリーズの方が合う。
-Channel Knob
ノブを”摘まむ”というより”掴む”と表現した方が良いぐらい大きい。右に回し切ると0dbになる。可変にも幅があるためフルで回し切る操作の慣れが必要。(回しすぎると腱鞘炎になりそう…)
-Mix
2つのチャンネルの音を鳴らしてもお互いが溶け合うように混ざる。調整が必要になる場合は後述するハイパスフィルターを使う。
-HPF
EQを備えていないのでミックス時はハイパスフィルターで調整をする。
-Isolator
マスターアウト前に3バンドアイソレーターが備えている。Hi・Mid・Low各帯域をガッツリ切る事ができる。全てのツマミを左に回し切ると無音になる。このアイソレーターだけでも商品化しても良いのではと思えるぐらい専用機並みにクオリティが高い。
-Aux
1系統のエフェクターを接続することが可能。チャンネルのPREかPOSTも選択できる。
-ライブセットでの活用
9月に行ったライブストリーミングで初めてRadius 4をライブセットに組込んだ。オーディオインターフェース2ch分、TR-8S、TB-03を各チャンネルに突っ込み、エフェクターは2台使用したので夫々を直列でAUXに接続。スピード感のあるミュートはPHONOとLINEのスイッチを切り替えて音をミュートし、エフェクターも所々でPRE、POSTを入替えてダブ処理を行った。
昨今はハンドメイドのロータリーミキサーブームではあるが、20万円以上のものが殆どである。しかし、Radius 2であれば日本までの送料を入れても10万円ちょい(20年10月現在)で買えてしまう。他の高級機と同等のクオリティのため、”My first Rotary Mixer”には最適なMasterSoundsをオススメしたい。久々に開発者にリスペクトを送りたい機材に出会えた。
Mastersounds
https://mastersounds.co.uk/
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Motoki Hada
UKのレイヴカルチャーに影響を受けトラックメイキング、DJ活動をスタート。ドイツの「Berlin Aufnahmen」「EMINOR BINARY」、ポーランドの「Pure Cocaine」よりリリースする。ラップトップを使ったトラックのクオリティとライブ性を競うバトル「Laptop Battle Tokyo Vol.6」で初出場ながら準優勝。レッドブルが世界中のクリエイターを選出し、教育するプログラム「Red Bull Music Academy」の体験版「Red Bull Music Academy Bass Camp 2012」に国内クリエイターとして選出される。
2016年12月にクラブミュージックをカセットテープでリリースするCharterhouse Records立ち上げる。